東北の復興を、消費税アップなどの増税なしでやろうという主張が結構ある。その具体的方法として出てくる一つが「政府がお札を刷る」ことだろう。しかし、これには直ぐ「それは禁じ手でしょう!」という反論が出る。今回、本当に禁じ手なのかどうかにつき、議論を整理してみたい。
よく政治家が言うのが「復興国債の日銀引き受け」であるが、その前に、もっと期待したいのは、政府自身が必要な金額の紙幣を発行することだろう。東北の復興や福島原発関係で政府が負担する金額の合計を仮に20兆円としようか。そのお金を、政府が紙幣を印刷して作り出すのである。今回は、あったものが津波等で吹っ飛んだのだから、それの復興にも「無から有を創る政府紙幣発行」、これが非常に適すると思う。しかし、この政府紙幣構想には、すぐ専門家みたいな人がいちゃもんをつける。私は専門家でないが、よくよく考えると専門家のいちゃもんは案外ピンとこない気がする。
● まず、政府紙幣発行は、結局、復興国債を出して、それを日銀に引き受けさせるのと同じという人がいる。更に、復興国債を普通に市場に発行し、市場に流通するようになった復興国債を日銀が買い取り吸収するのとも実質同じだから、今まで日銀でやっていることと結局余り変わらないという論もある。しかし、私はそういう見方にピンと来ない。国債の日銀引き受けは、もしその国債が無利子で永久債(永遠に返済しないでいい国債)であれば、政府紙幣と同じになる。しかし実際にはそうならないだろうから、結局、政府が返済せねばならない国債残高を増加させてしまう。市場に出してあとで日銀が吸収するのも同じ。結局、国の借金の相手が政府子会社の日銀であっても、これ以上増えすぎると懸念のある国債残高が大きく増えることには変わりない。国際的にも、「あれは東北復興の分増えただけ」といっても、結局、人の目につくのは膨れ上がった国債残高である。それこそ、日本の国債の信任の低下につながりかねない。その点、政府紙幣は国債残高を増やさない。政府として、誰にも返す必要のないお金だ。自分で印刷したお金だから。これほど分かりやすい話はない。
● 次に、政府がお金を印刷したりすると、超インフレを惹き起こすという、いつも出てくる意見がある。これは、多くの場合その通りだ。しかし、今の日本はそもそも超デフレだ。需要に対して供給力が大きく余ってしまっている。その受給ギャップは40兆円くらいあると言われる。最近、東北地震でサプライチェーン・供給が制約されているといっても需給ギャップはまだまだ大きく残っている。東北復興に必要なお金を20兆円として、それをもし3年でやれば、一年には7兆円だ。一年に7兆円のお金を政府が印刷して使っても、まだ需給ギャップは大きく残る。少なくともマクロ的には。だからマクロ的にはインフレは起きない。デフレが緩和されて丁度いい位だろう。
● 最後に、政府紙幣発行や、国債の日銀引き受けは、一度やると、クセになって際限なくやる、明治以来の過ちを繰り返すな!との意見も強い。しかし、そもそもどちらにしても制度的に簡単には出来ない。政府紙幣印刷なんてのは特別法制で初めて出来る。ところが、今回は1000年に一回の大地震・大津波、人類初の同時多発原発事故ではないか。これを例外に出来なくて、何を例外に出来るというのだろうか? 絶対今回だけということに出来る客観的条件が十分整っているではないか。だから、今回だけはお札を印刷すればいいのだ。
以上、「政府がお金を印刷すること」への、3つのよくある否定的意見につき、少なくとも私にはピンと来ないということを書いた。どうだろう? 私が良く理解してないだけであろうか? どう考えても、今回はお札を印刷して直ぐに東北復興、原発被害に取り組むべきと思う。その方が非常に分かりやすいでしょ? Nat