森村誠一の「悪魔の飽食」という本。(悪魔の飽食リンク

 戦時中の旧満州で、石井の率いる帝国陸軍の731部隊が細菌戦争の研究を行い、捕虜での人体実験、一部、実戦でも試用したとの話を本にしたものだ。

 処が、この本を巡る世の中の評論が実に騒がしい。そもそも元は共産党の機関紙に連載されたという経緯もあり、「右」の筋から「旧日本軍の行状を暴いて何になる?」という攻撃があった処、初版で使用した写真の一枚に無関係のものが混じっていた事から、本全体が「でっち上げ」という大批判になったものだ。一方、森村氏自身は、その写真については謝罪しつつも、相当の取材に基づくノンフィクションであると今でも主張している。

 例の韓国人慰安婦の強制連行問題では、そういう本を書いた吉田清治が完全な作り話と認めた。また、私も色々調べて、日本軍部による強制連行は少なくとも朝鮮半島ではなかったと思っている。しかし、731部隊の人体実験と実戦使用も同様の完全ねつ造であろうか。

 今でもネットで激烈な非難の記事があるので、はっきり書くのは若干躊躇われるが、私には、客観的に相当史実性があると思われる。

 戦後、石井らが米軍に細菌研究データを渡して東京裁判では戦犯扱いしないこと、ソ連に一切情報を出さないことという取引したかどうかも、今では確証はない。しかし、蚊帳の外に置かれたであろうソ連主導で実施されたハバロフスク裁判(1949年末)では、731部隊の第4部細菌製造部第1班班長であった柄沢十三夫少佐らが厳しく尋問され、実戦使用の事例と、人体実験につき詳細に証言し、有罪(強制労働実刑)になっている。

 更に、1997年に、中国の細菌戦被害者が東京地裁に起した賠償請求で、東京地裁は請求は却下しつつも、細菌戦実戦使用の事実認定はしている。

 また、私が教会の関係で触れた明治大学登戸研究所資料館(現場の731と呼応し日本サイドで基礎研究実施の陸軍の研究所の跡)の資料でも、日本サイドで、捕虜の人体実験を証言している資料あり、相当の裏付けはあると思う。

 しかし、完全ねつ造と主張するネット意見などでは、この本を読んでナイーブに信じる読者を愚かと断じる。そう断じる人は、ハバロフスク裁判の柄沢証言なども、恐らく、自白を強要されたものと言い切るに違いない。このように、日本軍の行状に関わる国民の間での超感情的な対立は、実に悲しいことだ。  Nat

●追記:

 
昨日、戦時中満州で細菌戦を進めていた陸軍731部隊についての森村誠一の著作「悪魔の飽食」のことを書いた。すると、南京事件にも言及したコメントを頂いた。
 

● 戦時中の日本軍の「3大悪行」とされるのが、
(1)「南京大虐殺事件」
(2)「731細菌戦」
(3)「朝鮮女性慰安婦強制連行」 だろう。
そして、この全てに対し、【A】「悪行」として暴き立てる勢力(中国・韓国側、日本の「左」系、朝日新聞など一時悪乗りして報道した日本の「左」っぽいメディア)と、【B】それに強烈反発する「右」的勢力が、果てしもない、醜い論争と、相手への侮蔑を繰り返している。

● 3問題の激論の現状:
(1)「南京」は東京裁判で松井石根大将らが絞首刑になった。戦勝米国らが一方的に裁いたものだから、日本の【B】勢力は、いまだに深い恨みを抱いており、汚名を晴らそうとする。
(2)「731」は、石井らの米軍との取引説が濃厚なように、無罪放免(ソ連主導のハバロフスク裁判では有罪)になったので、南京よりは「汚名」感は低い。それでも、醜い論争が続く。
(3)「慰安婦」は、植民地関係であった日・韓/朝の問題で、また、日韓基本条約による解決もあるので、一番【B】勢力が憤らなくてもいい問題だが、最近の韓国の攻勢で、【A】【B】対立が復活中。

● ということで、上記の通り、一番、執念の対立になっているのが、南京であろう。南京は、本田勝一の本や、ねつ造と言われる写真問題もある。それ以外にも、激論多数だ。

● 私の理解: 南京事件は、市民虐殺云々の前に、中国軍が籠る南京が陥落した訳だから、逃げ遅れて日本軍に殺された中国兵多数、また、これは戦争犯罪だが、殺してしまった捕虜の人数も多数だろう。問題の「市民への虐殺・暴行」だが、中国兵が平服に着替えて市民に紛れ込んだことも含めて、兵隊も市民も一緒に混乱して逃げたから、当然、一緒に殺された市民も結構いたはず。しかし、後に中国政府が30万人虐殺とか無茶くちゃな数字を言い、しかも朝日新聞がそれに便乗したから、日本の【B】勢力が猛烈反発し「南京事件存在せず」とまで言う訳である。どっちもどっち。互いに侮蔑し合う論争、非常に悲しいことだ。