といっても、未だぴんと来ないだろうから、これを使っている歌をご紹介する。「煙が目にしみる」(Smoke gets in your eyes)という名曲がある。They asked me how I knew ---my true love was true------------------.と、長く伸ばす部分。メロディーは同じ音(ド)でずっと伸ばしているだけなのだが、バックのコードは「ドミソ」→「ドミソ#」→「ドファラ」とせり上がる。ここで「感動的盛り上がり」が実現する。この曲の感動の半分はここから生まれる。
もうひとつ、胸がキュンとなるような「胸キュン」コードがある。4度マイナーというやつだ。IVmと書く。これも、4度(IV)か、その親戚の2度マイナーセヴン(IIm7)から崩れ落ちてくる先として登場する。例としては、ホワイトクリスマスの最後の方の、May your days be merry and bright------- と伸ばす部分で、それは起こる。メロディーとしてはbright----と伸ばしているのだが、後ろで響く和音が、4度(ファ・ラ・ド)から、4度マイナー(ファ・ラb・ド)に変わる。要は、和音の構成音のうちのラがラbに半音ずれるだけなのだが、これが胸キュンを生む。ラがラbに半音ずれ落ちると、もの悲しい、せつない響きになる。これが胸キュンを生むのだ。
この4度マイナー、IVmという胸キュン和音は、非常に多数の曲で多用されている。例の枚挙にいとまないとのはこのこと。ちょっとだけ引用すると、Star dust。最後の方で、though I dream in vain------ と伸ばす部分がそれ。というように、大体、後半、あるいは最後の方で胸キュン効果を狙って伸ばす部分に出て来る。もう一つは「いそしぎ」、そうShadow of your smile。あの曲の、勿論、最後の方。Now when I remember spring,ここでIIm7。この後、IVmになってAll the joy that love can bringとなる。IIm7→IVmの場合は、伸ばすのではなく、このように、ズズズズッと胸キュンしながらせり上がる構図になるのが普通だ。
ここで、その1で書いたAmapolaという甘い甘い名曲の話になる。この曲、知りませんか?「アマポーラ」とはスペイン語のひなげしのことらしいが、ひなげしに見立てた、愛する女性に対して歌う曲。1941年に全米で大ヒットした超甘い、名曲。う~~ん。知らないかな。どこかで聞いてみてくださいな。この曲の前半の圧巻は、まずは、その1で書いた、ずっとトニック(ド・ミ・ソ、あるいは、ミ・ソ・シ・レ)を続けてから、「魅惑のコード」のIIIbDiminishに落としていくという例のパターンを使っている点。そして、最後の4小節には、AMAPOLA,AMAPOLA,How I long to hear you say "I love you."とむせび泣くのだが、ここで、一回目のAMAPOLAと伸ばす部分で、4度から、胸キュンの4度マイナーに落ちていきつつ「AMAPOLA」と女性の名を呼ぶ。そして二回目のAMAPOLAになると、ここでなんと、「3度マイナーセヴン→3度bDiminish」という、例の魅惑のコード進行が出てくる。AMAPOLA,AMAPOLAという4小節の中で、胸キュンのIVmと、魅惑のIIIbDiminishとが、連続技で迫ってくるのだ。もう堪らない。この曲は、この部分で完全に聞く者をとろけさせる。
ただ、この連続技、つまり、IV→IVm→IIIm7→IIIbDiminish→IIm7 というコード進行は、Amapolaに限らない。Can’t take my eyes off youという名曲の、I love you baby, and if it’s quite alright, I need baby to warm the lonely night と盛り上がる部分がこれ。ここでジーンとくる。連続技だから。他にも例が多数ある。私も作曲するが、この連続技を使いたくなることが良くある。でもなるたけ、やめる。これに頼るのは、ちょっと悔しいから。それくらい、すごい連続技がこれだ。
突然、専門的な話で恐縮だが、いわゆる3度フラットのDiminishコード、III b dimというコードの持つ「魅惑感」は、私のような(ジャズ)ミュージシャンの端くれでも、もう体にジーンと来るくらい知っている。例を言おう。皆さん知らない曲かも知れないが、Fascinationという名曲があるよね。Audrey Hepburnの「昼下がりの情事」で湖の上で弦楽バンドが奏でるあの曲。「魅惑のワルツ」といわれる曲がそれです。It’s a fascination, I know.と始まる。知ってますか。あの曲で、魅惑感が高まる部分は、最初から言うと、It’s a fascination, I know. And it might have ended, right then, at the start.のRight thenという歌詞が来る部分だ。この部分の背景に、私の言う魅惑のコード、「三度フラットDiminish」が出てくる。
Fascination以外に、このパターンを使って魅惑的にしている曲の例は、シナトラの歌で有名なStrangers in the night。あの曲の歌詞、ご存知ないかも知れないが、Before the night was throughという部分。このnightの部分が、「魅惑の三度フラットDiminish」。Fascinationの場合もそうだが、この「魅惑の三度フラットDiminish」は、必ず「二度マイナーセブン」(レ・ファ・ラ・ド)に移行する。「三度マイナーセブン」から「魅惑の三度フラットDiminish」に崩れていき、更に、「二度マイナーセブン」にまで落ちていく、その過程で「魅惑」が発生する。
このパターンの他の曲の例としては、ご存知かどうかは別にして、アマポーラという超甘い曲もあるし、ジャズのスタンダードのBye bye blackbird。また、あのチャプリンのSmileという魅惑の名曲。クリスマス曲のLet it snow。みんな、この「魅惑の三度フラットDiminish」の部分で、ホロリと来る。それくらい、「魅惑の三度フラットDiminish」はたまらない。私もこれを何度ピアノで弾いても、しびれる。それが「魅惑の三度フラットDiminish」なのだ。 Nat