◆ 今の日本で、もう一つの極めて危ない分野は安全保障・国防体制だろう。実は日本政府は、今年大きな路線転換をした。それ自体は極めて大きな進歩だと、私は思う。
◆ 8月に諮問機関「新しい時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」からの画期的な報告書が出て、「基盤的防衛力」から「動的抑止力」への転換が提唱された。要するに冷戦時代の昔の発想である「ソ連軍が日本のどこに上陸しても応戦できるよう日本中に特に陸軍の部隊を面のように敷き詰める」という「基盤的防衛力」、これはもうやめる。代わりに、中国や北朝鮮が日本の島などに上陸するような周辺部の局所攻撃に機動的に兵力を動かす「動的抑止力」に切り替えるという案だ。あと、武器輸出三原則の緩和(でないと日本のメーカーが技術的に脱落)、また非核3原則に拘り過ぎの見直しなどが書かれていて、それに賛成の人にも反対の人にも極めて重要な内容であった。
◆ これに、菅政権はどう対処するのだろうかと思っていたら、この間の12月17日に新しい防衛大綱が閣議承認されて発表された。そこには、まさに「動的抑止力」への切り替えが大方針として謳われているではないか。こんな大きな安全保障・国防の方針転換、それは私に言わせると基本的に良い方向の転換なのだが、少なくとも外から見ていた印象では、国会を含めた真剣な議論なく、さらっと決まってしまったことに懸念を覚える。一方、武器輸出三原則緩和は、その頃には民主党が社民党と連立を復活させようとしていたので削除されたようだが、それも議論なしにそんな理由で削除されたのなら大問題だ。
◆ 動的抑止力は、大きな方向としては全く正しいと思う。冷戦時代の発想で日本本土の至る処にソ連などとの地上戦を行う重厚な陣構えをするより、周辺の島などへの中国などの進出を監視し検知し、特に空・海で機動的にそれへの対応をする。この方がよほど実際的な意味がある。しかし、誰かが懸念していたが、周辺の島などで何かがあった場合、自衛隊の空・海の機動部隊を素早く現地に派遣するといった新しいパターンに対して、政府も自衛隊も国民も、また関連の法制度もまだ全く対応力がないし、更に自衛隊の暴発を抑える仕組みもまだこれからだろう。だから、本来、国を挙げて新しい体制を作っていく努力が必要なのだ。ところが、そういう話が菅政権の中で真面目に取り上げられつつあるように見えないから非常に心配になる。逆に、なんと、これで自衛隊の予算を小回りの「集中と選択型」に効率化できるといった財務省発想でこれに賛同している向きも多そうで、本当にわが国をどう守るのかという議論が全く欠落しているように思われる。そもそも菅首相にはそういう問題意識がなさそうなのが大変心配だ。悪いが、あの人はほとんど「空っぽ」にしか見えない。
◆ そして、武器輸出緩和問題も、何も日本のM重工などの武器メーカーを世界の死の商人にしようということではなく、日本が自衛の為に持つ武器の技術につき、一定の国産技術の力を保持し続けたい、そのためには日本国内の市場向けだけでやっているのではメーカーが持たないという話だ。これも安全保障・国防上の重大な問題である。それを、社民党を連立にもう一度引き寄せるためというだけの政治的戦術で、今回即封印をしてしまった。国を思わず、党を思う・・・。非常にゆゆしい。
◆ そもそも民主党は、安全保障については右から左までの寄せ集めだから、もともとまともな統一政策が出てくるわけもない。しかし、予想以上にひどい。こんな調子では、菅政権には安全保障・国防問題を全く任せられないとしかいいようがない。沖縄含めた日米の体制問題も全く進展しないだろう。韓国・豪州・インドとの中国包囲網形成でも、皆に相手にされまい。更に、北朝鮮だが、金正日の死去が迫る今、どこでどう転んで日本に化学兵器でも搭載したロケットなどが打ち込まれるか本当に分らない。いざそういう時に、尖閣諸島問題の時のような政府のアタフタしかなさそうだ。だとすると、ロケットで死ぬ国民は浮かばれない。
◆ しかし、これまた、自民党に戻せばいいということでもなかろう。我々国民は今何をすればいいのだろう? 本当に分らない。困った。 Nat