菅首相が、突然「脱原発」宣言をして国民を驚かせた。と思うと翌日にはそれを全くの個人的見解だと言い出し、二度驚かせた。
原発の安全性問題が露わになった今、日本の電力の50%を原発で賄うという従来の目標は見直しとなり、少なくとも「縮原発」になるのは、国民も、各政党も皆同じく感じていることだろう。しかし、今後、原発を本当にどうするかは、次のような多くの関連する問題を含んだ複雑な方程式を解いていって始めて答えにたどり着くということだろう:
・原発の代わりに結局石油火力等が増えると電力コストがどれくらい高くなるか?
・それで日本の産業は持つのか?
・資源のない日本として石油の供給が途絶えたらどうするか?
・温暖化問題への取組みとの関係はどうするのか?
・原発に依存する過疎の地方経済の問題をどうするのか?
・原発輸出産業との関係はどうするのか?
・代わりに不安定な太陽・風力を増やす場合、電力供給の安定性はどうするのか?
・同様にその場合、周波数安定度(精密モーター等に重要) が落ちるが、どうする?
・現在の熱中性子炉は縮小でも、トリウムサイクルとか核融合などはやるのか?
原発をどうする?という問いが、このように複雑な諸要素を全て勘案しながら、中長期の時間軸の中で解決すべき問題であることを、多くの国民も直感的には知っているはずだ。それを、菅首相が、自分が「脱原発」と叫ぶと国民が一気に自分をサポートするだろうという風に国民を愚弄した思いで無責任発言をするのは、本当にA級戦犯・国賊モノである。
また、原発は完全な「悪」と切り捨て、一方で太陽と風力は完全な「善」というような、単純二元法で、エネルギー問題を論じることにも落とし穴があろう。太陽光発電の問題としてまずその高コストや不安定さが指摘される。更に人によっては、太陽光発電セルを製造する過程で投入する大量のエネルギー問題を指摘し、それを太陽光発電で回収するのに1.5-2年かかるという議論もする。しかし、実は原子力発電を置き換えるほどの超大規模太陽光発電を至るところに設置すると環境・気象への影響があり得るのである。これは私が大昔に新技術の仕事をしていた時から言ってきたことだ。
地球に降り注ぐ太陽光の30%は大気・雲・地表に反射されて宇宙に戻る。大気で6%、雲で20%、地表で4%だ。ところが、地表に広大な太陽光パネル(黒い板)を置くと、黒いパネルに太陽光の殆どが吸い取られ反射がなくなる。つまり、地面を無駄に熱するだけであった太陽光を電力に変えて有効利用するだけなのならいいのだが、実はこれまでは4%分、宇宙に戻していたエネルギーを地球に留めてしまうという副作用があるのだ。今30%の反射率(アルベド;albedo)が地球全体で1%減るだけで、地球の温度が1度上昇するとも言う。つまり大規模太陽光発電は、地球の温暖化を相当促進するのである。また、太陽光の中で大量にある紫外線は植物などに当ると化学エネルギーに変わるが、それが替りに太陽光パネルに当ると電気になり、更に結局回り回って熱になってしまう。これも温暖化促進要因になる。これがどの程度の問題になるか、ちょっと分らないが、そういうこともあるということだ。
このように、太陽光発電(太陽熱発電でも)というと「自然でクリーン」で(コストが高いのと不安定な以外)全ていいところばかり・・・と思いがちだが、大規模にすると地球環境への歪みを生じることもあるということだ。人類がエネルギーを大量消費する文化を持った時から、何をしても地球への負荷はあるのだ。そういう目で総合的にこの問題を見なければならない。
だから、特定のエネルギー形態を好きとか嫌いだという政治的思惑からではなく、冷静な施策として、原子力、化石燃料、太陽、風、そして前にこのブログで書いた環境適合型の地熱などを、時間軸の中で適正ミックスするエネルギー政索を練り上げて欲しい。私は強くそう思う。 Nat