福島原発事故の国会調査委員会が菅元首相に事情聴取したやりとりが報道された。特に緊急事態宣言に至るまでに、2時間も余分に時間が掛かった件が、私としては気になった。
時間ごとの推移を見てみると:3月11日の2時46分に地震発生、3時半過ぎに津波到来。3時37分に全電源喪失。4時36分注水不能。4時45分に東電から政府に注水不能の報告。5時ごろ海江田経産相から菅首相に緊急事態宣言を要請。7時3分に原子力緊急事態宣言。菅首相に緊急事態宣言を要請してから2時間も菅首相が預かった形になった。菅首相は突然の事態で驚き、まずは原子炉の状態はどうなっているのか聞いて理解しようして時間が経過した。更に6時からは何と与野党党首会談があり、緊急事態宣言の件は一旦棚上げして会談に行き、戻ってから宣言を出したので更に遅れた。菅氏は、わざと遅らせたこともないし、結果的に遅れて問題が出たとも思えないと開き直っている。しかし、おおいに問題が残る。
緊急事態宣言は原子力災害対策特別措置法15条で、今回のような緊急事態発生の場合、経産省大臣がただちに首相に報告し、そして首相はただちに緊急事態宣言を出し、関連の電力会社や地域に対して対策の指示を出すことになっている。首相にこのような緊急の指示権限が与えられる事態は、大きく言って、災害・騒乱・戦争の際の警察あるいは自衛隊への出動命令と、非常災害や原子力災害の緊急事態宣言と対策指示の2種類である。もし、このような重大な権限が首相に与えられているとすると、緊急事態が起こる前から、首相就任と同時に、いざ事態が起きた時のための基本的な知識と心構えを首相に得させて置かないといけないはずだ。ところが、少なくとも原子力緊急事態宣言については、経産省も実際にそのような事態が起こると想定していなかったようで、首相に対して、原発で最大の事故は原子炉の冷却不能であって、そうなるとただちに間を置かず緊急事態宣言を出し、避難などの指示を出す必要があることとその意味を、全く事前ご説明していなかったという。そこに菅氏のあの性格だ。日本政府が首相に重大権限を与えておいて、何らその準備をしていなかったこと。そこに緊急事態ではヒステリーを起こす人が首相になっていた。この二重の不幸が重なって、緊急事態宣言が2時間棚上げになったのだ。
そうなると、戦争勃発の場合の、自衛隊への主導命令についても、現在の野田首相にちゃんと事前の説明と準備を行っているのだろうかが心配になる。菅氏は、原子炉の炉心の冷却のイロハから聞いたらしいが、まさか戦争の際に「戦争って何だ?自衛隊は何をするんだ?」等という質問からは始まらないであろうが、それに近い、アホな対応から始まる心配がある。
かくかように、日本人という稲作農耕民族は、こつこつ努力することは得意だが、ゲルマン民族と異なり、非常事態等の緊急事態への迅速な対応には全然向いていないみたいだ。日ごろのその為の対応体制の準備も一般的に弱そうだ。今度、原子力規制委員会を政治家の介入許さない3条委員会とする自民党案と、政治家の介入を許す民主党案が、今ぶつかっているが、そもそもどちらの制度にしても、作った運営体制を、ちゃんと運営できるような準備と人選をしてもらいたいものだ。でないと、日本はえらいことになりかねない。
Nat