前回、日本はギリシャとは全く違うということを書いた。今回は、その日本の将来につき更に書いてみたい。ダメと言われるギリシャ、スペインやイタリア等の南欧に比べて、日本は果たしてどうなのか。
まず、南欧等と違う日本の特長。(注:文化面より、経済を基本に述べる。それが今最大の問題だから。):
1.日本は、今後緩やかに人口減少で縮小するといえども、国内に巨大な市場がある。
2.円高で苦しんでいるとはいえども、製造業の強いベースがある。
3.ユーロのような「自国のものでない通貨」ではなく、世界の中で唯一、米国(ドル)と日本(円)だけは自国の国際通貨を持っている。(これを分かってない人が多いが。)
4.勤勉で知的レベルの高い多数の中間層がいる。
5.製造業以外にも、伝統的日本文化とクールジャパンと言われるアニメ等のソフト文化や、「もてなし」と言われる日本人ならではのサービス等、日本ならではのものもある。
6.成長圏である中国・アジアに対し地理的に至近距離に立地している。(非常に重要。)
これらを活かして、世界の中で次の時代にも生き残る国家戦略はあり得ると思う。
一方、大きな弱点もある:
1.ギリシャに似て、天然資源も食糧資源も乏しく、エネルギー・原材料・食糧の膨大な輸入が常に必須。だからそのためには、製品輸出とサービス・技術輸出(貿易外)で外貨を稼ぐのと、投資を引き込んで国際収支をバランスさせるしかない。このことは近年、政治家・国民の意識上は弱いみたいだが、明治以来、日本の最大の重荷であることに変わりがない。
2.もう一つは、日本人の人材としての特質。これが最大の長所にも命とりの短所にもなる。特に製造業の未来への致命傷として、人材の国際対応力の貧困さと、年功序列から来るリーダーシップの不足を挙げておこう。
以上のような与えられた条件で、どういう国家を目指すのか? これを、国民の中の指導者たるものは最優先課題として検討し提唱すべきであるが、現実は全くそうなっていない。そこで、私Natのような、国家戦略の専門家でないビジネスマン 兼 遊びジャズ・ミュ-ジシャンが、こういう愚考をすることになる。政治家も官僚もしっかりしてくれ!と思う。
ずばり、私の結論を言うと、日本経済を支えるのは、やはり製造業であろう。製造業は日本のGDPの2割しかなく、残り8割はサービス・金融・不動産・建設・卸売/小売などの非製造業だ。しかし、日本の将来を率いる「エース」は製造業である。非製造業は、言語・文化の障壁もあり、外資系・外国人系の非製造業が中々参入出来ないでいるが、一部を除き、元々国際的競争力は弱い。とても日本経済の「エース」になれない「その他大勢」である。また、前述の通り、エネルギー・原材料・食糧の輸入の為の外貨稼ぎは日本の永遠の重荷であるが、これは基本的にエースの製造業にしか出来ない。更に、他産業への波及効果の点でも、製造業の牽引効果は大きい。そこで「エース製造業」には引き続き国際的に頑張ってもらい、輸出で稼ぐか、海外生産からの配当・技術料を稼いでもらわざるを得ないのである。製造業の空洞化・衰退が懸念されているが、それをアニメなり日本のおもてなし旅館への観光誘致だけで穴埋めすることは全く無理だからだ。更に言えば、日本が圧倒的な外資の投資受け入れ国になるイメージは残念ながら持てないので、どうしても「製品の輸出・海外生産」というお家芸を改めて発展させるのが基本となる次第だ。なんと、発想の転換のないこと!と言われそうだが、私は冷厳なる現実としては、依然として「製造業」だと思う。滅び行く民主党政権は「環境・医療/介護などで成長戦略」等と口走る。しかし、本当の成長戦略は、日本の製造業の発展にしかない。
ところがだ、近年、日本の製造業は、中国・韓国等アジア新興国に押され、またIT分野の例だがAppleに代表される米国勢等にも押され気味である。一つは世界中で唯一突出的に為替レートが高騰してしまった円が理由。7年間で120円が80円にというと、もう異常な不幸としかいいようがない。もう一つは、日本の造るものが、安価な大量生産の中国・韓国製品でもなければ、高度の先進性と完成度を持ったAppleでもない、中途半端製品が多くなっているからだ。しかし、iPad等のIT商品や、DRAMのようなcommodityの部品では苦戦しているが、特にB2B(売り先が企業である製品)では、高度機能材料・部品やロボット等、日本が圧倒的世界No.1の分野はまだまだ多い。いわゆる日本の匠の技。そして、B2C(個人向け)のiPadの類でも、ソニーが凋落し、携帯がガラパゴス化する前までは、日本の製品の先進性と完成度は高かったのだ。
それを取り戻すしかない。近年、中国などで製造・販売することにより日本の製造業が生き延びるという可能性にすがるメーカーが多かったたが、中国の諸問題が露顕する今、中国等への「横」展開だけではなく、先進的R&D/M&Aによる「上」への進化こそが、日本製造業の明日への道と思ってほしい。
それには、第一に、その為の国家的環境整備が必要だ。
1.先ずとにかく、異常な円高を思い切った金融政策(即ちデフレから適度のインフレへの転換と実質金利のマイナス化;そして、私は結構本気だが、政府が大量の紙幣発行して使いまくることを含めて)で大きく是正。今製造業の経営者は、余りの円高の前に戸惑い・焦り、自信喪失している。円安誘導で、これを一旦正常化しないと何も始まらない。それを政府に強く求めたい。
2.そして、国家が次世代の製造業のビジョンを強く打ち出すこと。それに基づき、国際競争型の製造業の法人税はうんと安くする。あるいは、そういう企業のR&D費用の200%を所得控除させるといった思い切った政策も必要。これで、経営者はやる気を取り戻す。
しかしこのような円安や低法人税化等の環境整備は必要条件だが、十分条件ではない。結局、日本のメーカー自身が今いちど、先進的R&Dに注力すると共に、国内外の先進的なビジネスを有利にM&Aで取り込んでいくこと、これをやるしかない。これを進める上で、米国や中・韓にない日本人の優越性は、高い創意工夫も持続的努力も出来るインテリ度の高い多数ミドル層人材である。一方で障害になるのは、日本人部落に閉じこもる民族性と国際性の欠如、更に従来の日本企業組織における年功序列体制から来るリーダーシップの不足だ。先進的R&Dと、先進的M&Aを推進するには、ビジョンを掲げグローバルな場面で組織を牽引出来るリーダーシップが不可欠である。ところが、これが育成されていないし、数少ないそういう人材は、まだ年功序列性の残る日本企業組織では圧殺されるのである。
これらの改善には、大分前にも書いた通り、小中高の教育段階からの一部に国際ミックスクラスの導入とか、日本人の英語能力を破壊してきたこれまでの英語教育を抜本的に改めるとか、政府の役割も期待される分野もある。一方で、企業の中で真のリーダーを登用する経営風土の涵養は、政府に出来ることは少なく、時間は掛かるが企業自身の進化で成し遂げていくしかない。中間層での抜擢までやり過ぎると、日本の良さが薄まるリスクもあるが、少なくとも上層部においては、グローバル・リーダーシップ人材の思い切った登用をしていける体制が必要である。日本の現状はむしろ逆で、中間層が実力主義になってきている反面、トップはまだ順繰り人事。それでは全くダメであるが、そういうのを変革するには相当の年月がかかる。しかし、それまで待っていられない。まずは円安と低法人税化で現状の製造業の後押しをしつつ、政府施策のメッセージ効果で、現存の経営陣をして改めてR&D・M&Aにまい進させる気にさせなければならない。そう出来ない経営陣には早く交代してもらうように株主が適切なる圧力をかける。これをやっていかないと日本は終わってしまう。私はそう思う。 Nat