世界の3大宗教といえば、キリスト教、イスラム教と、一応仏教。(ヒンズー教の方が今や人数多いが。)人数ではキリスト教が33%と一番多く、イスラム教は24%だが、勢いは圧倒的にイスラム教だろう。イスラム人口の急増の原因は、イスラム教圏と途上国が重なり、出生率が非常に高いことだろう。 

 しかし、イスラム教が宗教として拡がり易い内容を持っていることも、見逃せない点であろうと思う。その点を、ここで書いておきたい。 

 仏教は、もともとゴータマ・ブッダ個人の悟りが出発点であるように、人に簡単に伝えたり教えたりできるものではなかった。それが欠点であったので、途中から多くの経典が出来て、しかも大乗仏教のように、より人々に受け入れられ易いものにまで変遷していった。しかし、何といっても最大の欠点は、余りにも宗派に分かれ、余りにも多数の経典が発生したことであろう。今ではマイナー宗教だ。そこで、ここでは世界の2大宗教とでも言うべきキリスト教とイスラム教の比較で見てみたい。

  私はキリスト教なのであるが、出来るだけ客観的に言うと、イスラム教は色々な意味で「分かり易い」という最大の特徴を持っていると思う。まず、世界を創造した神さまが唯一神として存在していると信じる。そして、これまでもイエスを含めて偉大な預言者が登場したが、マホメッドこそが最終預言者であると信じる。彼の教えに基づき、決められた生活をする。具体的には、毎日の決まった時間に礼拝する。あと、喜捨、そしてある時期には断食と巡礼だ。何のためにそういう決まった生活をするのか?というと、神に喜ばれる者となって、神に導かれる者になって生きたいからということになるのだろう。来生(天国)も信じているが、基本的に、キリスト教や浄土真宗等のように「救われる」という感覚ではなく、マホメッドの教えに従い、神を信じ、神を礼拝し、喜捨などの生き方をすること自体が目的になる。そして、実際にはそれぞれの共同体でイスラム法があって、社会生活を色々決めている。それに沿い生きる。要するに信じて、決まりに沿い生きる。原理がシンプルなのだ。 

 これに対し、キリスト教はどうか? 世界を創造した一つの神を信じる点では同じ。しかし最大の違いは、イエスという人の位置づけ。人であったが、神が人に宿った人間神であったと信じる。しかも、十字架で刑死したのが復活したと信じる。復活後天に上げられた後は、弟子たちに聖霊という神の力が下ったと信じる。ここまでで、既に十分ややこしい。そこで、父と子(イエス)と聖霊の「三位一体」などという更にややこしい教理が必要になる。次に最大の特徴は、イスラムと全然違い、生活規範主義ではないということだ。つまりイスラム教同様、生活規範・ルールがやかましくあったユダヤ教を越えてきたことから、人は正しい生活をするから神に許され愛されるのではなく、「人は弱く悪い心だが、イエスキリストの十字架によって示された神の一方的な愛を信じることだけで、許され愛される」とする。新しい生き方になるとしても、それはその結果でしかない。神の「見返りを求めない」一方的な絶対的な愛。実に崇高な愛の宗教であるが、余りにも崇高で、とかく凡人には素通りしてしまうことも多い。だから、キリスト教も、俗には「イエス様・マリア様=菩薩様」的になってマリア像を菩薩のように拝むスタイルとか、あるいは、生活倫理主義的にアレンジしたスタイルなどが「普及版キリスト教」になったりする。 

 どこかの宗教社会学者が書いていたが、人間に一番受ける宗教は、神の側からの救い(「神から人へ」)の素晴らしさと、それに応えて神に忠誠を示す人間の生活規範(「人から神へ」)が、程よくバランスしているのがいいということらしい。どちらかに偏るのは流行らない。要するに、「神は愛」でいのだが、「毎日これとこれをきちんとして生きればあなたは合格」というのが明確にあるほうが分かりやすくやりやすいという訳だ。キリスト教がその純粋形において、もっともやりにくいのは、神からの一方的な愛が素晴らしい反面、「これをしていれば合格」というのが実は定められてないということだ。「えっ? 毎週日曜に教会に行くことじゃないの?」とあなたは思うかも知れない。しかし、これは後の世に次第に形成されたクリスチャンの習慣的な規範に過ぎない。前述のとおり「これこれをしていれば合格」的な要素がある方が分かり易いので、後づけで色々な形も出来た。しかし、元々の本質は「一方的に愛されていることを信じて生きる」に尽きるのである。この崇高だが、ともすれば人間のサガに合わない「真理」がキリスト教の最大の魅力であり欠点である。 

 そこでイスラムに戻るが、イスラムは生活規範がびしっとあって明確。しかも、イスラム法ということで、政教分離されにくく、社会や共同体全体でそれを順守するから、いよいよ分かり易く、仲間意識も盛り上がる。キリスト教、特に、ルネッサンス以降の「市民、個々人の自我意識」と相まって発展したプロテスタントが個々人の信仰になり易いのに対し、イスラムは共同体宗教になり易い。これは強い。流行るし、なかなか廃れない。今後、いよいよイスラムは増えるのは、ここに原因があると思う。    Nat