トランプが大統領になるのを支持した一大勢力として、いわゆるBible Beltの「熱心かつ原理主義的なキリスト教徒」の人々が挙げられている。
それはどういう人たちなのか? そもそも日本ではキリスト教は非常に少数(1%)であり、文化的背景も乏しいので、この辺については、一部の報道からイメージ的に理解することになろう。そして斯く言う私も、日本の教会の一員なのではあるが、勿論、アメリカのキリスト教の専門家でも何でもないので、表層的な理解になる。しかし、何かの参考になればと思い、以下に私の理解を書いておく。
[1] まず、米国はいまだにキリスト教が圧倒的で、少し減り気味ではあるが、おおざっぱに国民の75%がキリスト教。20台の若者でも60%台がキリスト教だ。
[2] 次に、 キリスト教の大分類。プロテスタント(新教)とカトリックへの二分類。(そしてそれ以外の少数派-モルモン、エホバ等だ。)この辺は、歴史で学ぶ宗教改革以降のがプロテスタントということで、まだ何となく分かるだろう。そして米国では、キリスト教の人の3分の2がプロテスタントで、カトリックは3割である。
[3] しかし、プロテスタントの中の分類、特に米国ではこれが問題になるのだが、ここからが難しい。皆、イエスキリスト(とその十字架)による救いを信じており、宗教改革以降の流れを汲んでいる点では共通。但し、米国の政治運動などとの関係で出てくる分類は、伝統的主流派(Mainline)とEvangelicals的な派に2分するものが多い。二つにエイやと分けられるかは難しいが、Evangelicals(福音主義)の特徴を言うと:
・聖書を字句通り解釈し信じる度合いが強い。
・「生まれかわりの経験」(“Born again”)を通じて生まれかわると信じる度合いが強い。
・終生かけてイエスをフォローして生きるエネルギーが強く、宣教、そして社会への働きかけ度合いが強い。
・キリスト以外を信じる宗教への排斥度合いは高い。
これに対して、Mainline(伝統的主流派)では:
・聖書には神の言葉が入っているが、書かれた時代の人間社会の影響もあるとする。
・生まれかわりの経験というより、クリスチャンになって生きて行く中で次第にキリストに近づいていくというような信仰の面が強い。
・宣教、社会運動において、個々人レベルでの穏健なものであることが多い。
・キリスト教以外の宗教への寛容度が高い。
というようなことだろう。
・・・そして、実は、Mainlineは主流派の筈が、実際にはジリ貧で、今や、プロテスタントの3分の1でしかなく、Evangelicalsが半分ちょっとなのである。この辺に、良くも悪くも米国のプロテスタントの特徴があると思う。そして、勢いの強いのがEvangelicalsであることと、トランプ旋風とが、符号するのである。(ちなみに、日本では所詮社会の中の少数であるプロテスタント・キリスト教の中の話だが、Mainlineに類するのが圧倒的で、Evangelicals風のは「怪しげ」と思われがちであり、対照的である。)
・聖書を字句通り信じる(処女降誕、イエスの奇跡などなど全部字句通りとする。)その上に、それに留まらず、それに矛盾するもの(典型的には進化論や現代科学)を一切排除し、それと戦う。
・ Evangelistsが福音を熱烈に広めようとするのに対し、Fundamentalistsはむしろ聖書に対立する世の全てと戦う度合いが強い。
さて、トランプ大統領を支持したBible Beltでは、上記のEvangelicals更にはFundamentalistsの割合が高い。つまり、熱心に社会運動するタイプのクリスチャン、聖書の信仰に矛盾するようなものに戦いを挑むタイプが多いということだ。トランプが熱心なキリスト教徒と思う人は少なかろうが、EvangelicalsやFundamentalistsの気質は、トランプなら「古き良きアメリカに復古する改革をしてくれる」という期待と馴染みが良かったのだ。そして、彼らからすると、北西部やカリフォルニアに多い、穏健な信仰で余り行動しないMainlineのクリスチャンのイメージと、偽善的に見えたヒラリーがダブったのであろう。
しかし、トランプ支持、ヒラリー支持の違いは、キリスト教の信仰の中身の違いよりも、もっぱらその人の住んでいる地域共同体の人の気質なり価値観の指向性の違いがその本質であろう。
純粋にクリスチャンの信仰という観点から言うと、私はMainlineもEvangelistsもFundamentalistsもないと思う。ただただ、キリストにおいて神の決定的な愛が示されたことを心底信じて生きようとするかだけが問われていると思う。 Nat