★2月2日に米国の国防省が、米国の核兵器に関する基本方針の見直し(Nuclear Posture Review; NPR)を発表。これからは敵国の核兵器以外による攻撃にも核で対抗する、また小型核兵器を開発し、核兵器の使用のハードルを下げるといったことをすると報道された。そして、報道によっては、トランプ大統領の無謀な方針の一環で、米国がこれから核兵器を、より色々な局面で使う国になれるのを目指すもの、、といった懸念の報道もあった。
● 非常に大事なことなので、米国国防省のHPに公表されているNPRの原文、(時間もないので、要旨ー要旨と言っても長文だが)を、自分で当たってみた。(以下のサイトのRead Executive Summaryをクリック。)国防省サイト
● その前に、見直しの背景だが、掛かる見直しは、トランプの発案で突然されたものではなく、1994年から4年ごとに世界情勢を勘案して継続的に行われてきているものであり、その結果、大きな軌道修正がある場合には、それがNPRとして出されるものだ。前回のNPRは2010年だ。
● それで、今回のNPRの冒頭に、トランプ大統領が「新しいNPRを策定するよう昨年1月27日に指示した」と書いてあるので、確かに、今回のNPR策定に対して、少なくとも形式上、トランプが命令して始まった形はあったであろう。しかし、これだけ、北朝鮮・ロシア・中国・イランなどの情勢変化がある中だから、トランプがいようがいまいが、2018年の見直しが、新NPRの発表を伴わない訳がない。そして読んでみると分かるが、これは、トランプの指示というよりも、国防省のプロ官僚、国防族、関係者が練り上げたものであることは明白である。従って、今回のNPRが「トランプの狂気の産物」であるとの見方は当たらないだろう。
● そして、長くなるので簡単に言ってしまうが、
(1)オバマ時代に米国の核兵器の「間引き」をしてきた結果、核による抑止の為の核兵器手段が、残ったドーンと大きいものに偏ってきてしまっている一方
(2)中・ロ、特にロシアは戦術核兵器等、使用のハードルの低い手段では今や米国を凌駕しているとの危ない認識を持つに至っていること
(3)また、今では、核に限らぬ、サイバーも含めた複合攻撃リスクの時代で、米国の核抑止のメニューが、今や単純な「核 対 核」のもの、しかも、その核メニューが粗くなり過ぎて、抑止力が低下している・
・・との認識に立っている。その是正のため:
(A)例えば大陸間弾道ミサイル搭載の核も小型のものありとか、潜水艦からの打ち上げ核ミサイルも非常に小型のものも用意するという具合に、メニューで歯抜けの処を埋めて、漏れのない抑止体制にしないと、却って危ない。
(B)そして向上すべきはそういう核兵器のきめ細かメニュに留まらず、敵国の動きの検知、米国の対抗手段の検討、相手国との交渉などの「ソフト」面も向上させ、抑止力を全体として向上させようというものだ。
● 私には、そう読める。そして、NPRの文章がそう書いている通り、核不拡散、核廃止への道筋は追求するものの、世界の現状の中では、米国の核抑止体制が「歯抜けメニュ」になりつつあるのは、危険過ぎて、放置できない、という趣旨である。
● とすると、私も究極の核廃絶を願うものであるが、現在の世の中では、米国の国防専門家が、ロシア・中国等の現実の動きに応じて策定した今回のNPRは、それ自体は、何もしない場合に比べると、かなり合理性は高いように思う。
● 広島・長崎サイズの、今では「小型原爆」を、復活させるのか?という、被爆国特有の憤激は全くもって心情的には理解できるが、現実に米国の核の傘に依存せざるを得ない日本としては、核の傘を時々張り替えることには合理性を見ざるを得ないだろう、というのが私の意見である。
・・どうだろう? (なお、日本の河野外相がさっそく「賛成」と言っているのは、そういう判断とは違う次元、即ち、専ら、トランプ政権への迎合外交からのものであろう。) Nat