★今朝の日経に以下コピーの記事あり、黒田日銀総裁の最後の記者会見の弁で「賃金・物価が上がらないというノルム(社会通念)は予想よりも強かった」というのが引用されている。
・・・10年も超金融緩和続けた今ごろそういうのなら、2~3年目あたり、特に量的緩和を諦めて金利政策・YCC(イールドカーブコントロール)に転じた2016年位には、その点に気が付いて軌道修正して欲しかった。
◆ この日経記事にある「期待インフレ」説。書かれている通り、米国のクルーグマン教授の説、ザックリ言うと「伝統的なマネーサプライ増やす金融政策では、もはや“流動性の罠”(銀行にお金が溜まるだけで実態経済にお金が回らない)になるだけ。お金を大量に刷ること(Print lots of money)で需要を喚起し、インフレ期待を作成することが経済を拡大する唯一の方法である。」である。いわゆる「デフレ・インフレは貨幣的(期待感)現象」説だ。
・・・これらに立脚した、日本の浜田教授、岩田教授らの同様の主張に乗ったのが、2012年末に財務省から日銀総裁になった黒田氏である。
・・・就任当時から「インフレ・デフレは貨幣的現象。日銀が大量のお金を出すことで、人々に、これから貨幣価値が下がるから今のうちに値上げしようという動きを作り出せる」と豪語して異次元の超緩和を始めた。
◆ しかし、しかし、私が2013年4月に書いた以下の文をご覧いただきたいが、私ですら、「日本のデフレは、実態経済において需要が弱く、特に耐久消費財でとても値上げ等出来ず、中国も含めた競争過多の中で価格破壊が止まらないからである。だから貨幣的なインフレ期待では、とてもデフレ解消できない」と懸念していた。 10年前の拙文
・・・私が今言いたいことは、10年前に溝口は既に、黒田日銀がインフレ2%目標を達成できないことを見越していたとの自慢ではない。10年前の当時、私だけでなく、多くの実業界の人間も、そして結構多くの政治家も浜田・岩田理論の「デフレは貨幣的に解消できる」との主張には半分以上疑問だったのだ。しかし、政権を取った安倍首相としては、飛びつきたい恰好のセオリーだったし、そもそも黒田氏自身が、超緩和に抵抗してきた白川前総裁との違いを出す思惑から、これに飛びついたのだ。
・・・但し、アベノミクス全体像としては、一応、①黒田金融緩和、②財政出動、③成長戦略の三つの矢であったが、②が短期で終わり、③は不発、結果的に①だけになったのは不幸であった。
・・・あと、黒田日銀の超緩和はデフレ克服には実質失敗したが、円安、株高を産み、それを享受した層もいた。
◆ 冒頭に書いた通り、今10年を振り返って黒田総裁は「理論に反して、賃金・物価を上げないノルムは予想より強かった」というようなことを言っているが、「ノルム」の問題ではなく、私が何度も詳論してきている通り、値上げ・賃上げが出来ない日本の実態経済の構造病があるのだ。黒田氏が本当にそれを認めているのか、まだ疑わしいが、それを半分認めるのにも10年間もかかり、その間に、日本経済の更なる劣化をもたらしたのは、実に残念である。金融政策が、政治の思惑に大きく引っ張られて弊害を生んだ極端な事例でもある。