★今朝の日経に、また、日本の一人当たりのGDPが韓国にも抜かれ、OECD38国中の22位にまで後退、という記事が出ている。(コピー添付。)・・・本当はどうなんだろう??ということにつき、少し書いておこう。
【1】日本は、そこまで、ダメになってきているのか?
(2) そこで、ここで「労働生産性」という観点から考えるため、GDPを就労人口で割り算するか、国民の総就労時間で割り算したものを見よう。
・・・その上で国際比較だが、各国の通貨が違うので比較が難しいという永遠の課題がある。だが、いわゆる「購買力平価」(いわば “本来の実力為替レート”)で計算したドル為替レートでドルに換算した比較表が、まあまだマッシな比較というのが一般的なところだ。・・・その比較を日本生産性本部が毎年出しているので、二番目に貼り付けよう。
⇒ 御覧の通り、就労時間あたりでも、就労人口あたりでも、日本はOECD38 国中で、29位とか32位とかだ。欧米諸国ははるか上位15位以内にいる。何となくダメそうなイタリアでも就労時間あたりで17位、77.8ドルであり、一方、日本は56.8ドルでしかない。
⇒ 生産性本部のチャートの下に、国際順位の長期推移の表もつけてある。OECD内でずっと長らく21位だったのが、2018年から急速に順位を落として32位になっている。
【2】結局、為替レート問題なのか?
・・・しかし、実際のドル円の市場レートは、3番目のチャートの通り、2018年頃の108円くらいが今や140~150円と超円安になったので、その為に見かけ上のドルベースの労働生産性の数字が低下しているのでは、と思いたくなる。
・・・処が、日本生産性本部のチャートは、OECD方式の購買力平価でのドル円ㇾ―トで計算しており、3番目の表の下のグラフの青い購買力平価の為替レートは105円とかのままである。つまり金融投機で超円安になっているが、「本来のレート」の意味の購買力平価(PPP)でのレートは横ばいなので、それでドル換算した日本の労働生産性の数字、順位が、ここ5年ほどでどんどん低下しているのは、超円安による見かけ上の減少ではないことになる。
・・・しかし、以下【3】で述べる通り、日本の就労時間や就労人口あたりのGDPは、長らくOECD内でずって21位だから褒めたものではないのだが、2018年以降の急速な順位低下は、それにしても、ちょっとひどすぎる気がする。
・・・この点、生産性本部のレポ―トは、ここ数年の急速低下の本質的な原因説明を全く書いてない。残念である。
・・・確かに、2018年以降の日本では、業績好調の大企業は専ら超円安、しかも金利裁定狙いの金融投機主導の超円安の棚ぼた利益による面が強いようにも思える。そして、コストインフレを必ずしも賃上げに反映できない収益力の限界。そして、GAFAが牽引する世界産業におけるイノベーションに日本の多くの企業は取り残され、それなのに、企業ムラの悪弊から抜け出せず、日産が象徴するようにムラの中の出世競争に明け暮れる日本企業の悲しい現実がある。それが、ここ数年の日本の時間・就労人口あたりのGDPの急速な順位低下の背景の一つとしてある面は否めないだろう。
・・・しかし、私の仮説は「されど為替」である。
⇒ まず、各国の近年のインフレ率。4番目の世界のインフレ率比較。ここ数年、欧米は年6~8%のインフレに襲われた。しかし、日本は精々2%。世界のエネ・資材コストインフレは共通だし、日本は超円安での輸入インフレがひどかったのに、総合インフレ率では、日本はずば抜けてインフレが低い。・・・それだけ、デフレ引力が強い悲しい実態があることになるし、企業の価格転嫁能力の乏しさ問題でもある。
・・・しかし、何はともあれ、日本のインフレは低いのだ。
・・・なのに、なのに、OECDの「購買力平価」でのドル円、“本来的な実力”でのドル円は105円で横ばいなのである。
⇒ OECDの購買力平価のつっこんだ批判的な分析は私も出来ていないが、直感的におかしい。これだけ米国や欧州がインフレで貨幣価値が下がっているなら、購買力平価でのドル円は、逆にもっと円高で90円くらいにしないと釣り合わないのではないか???と私は感じる。
⇒ ということを勘案すると、2018年以降の、日本の就労時間や就労人口あたりのGDPの世界順位の急速な低下、あるいは、日経新聞の表で韓国にまで抜かされているのは、結局、円でのGDPをドル変換した際のレートの問題がかなりのウェイトを占めている気がする。
・・・要は、日本の就労時間や就労人口あたりのGDPは、確かに長らくOECD中21位と低かったのはそうなのだが、2018年から急低下し、32位とかまで落ちているのは、かなりの部分が、使う為替レート、特にOECDの購買力平価レートに問題があるのではないか、と私は直感している。・・・つまり、日本以外の国のGDPがインフレで数字が膨らんでいるのに対して、日本はそうでもない、それで差が付いているのではないか。しかし、購買力平価調整でのそのインフレ差の補正が上手くできていないのでは、ということだ。
◆ では最後に、そもそもずっと21位と低かった、その根本原因は何か?を述べておく。
・・・これについては、前に2月に以下の記事を書いたので見ていただきたい。
・・・日本人の仕事ぶりが「のろま」なのか? ITが得意でなく、業務の合理化が遅れているからなのか?
・・・色々な調査から、日本人は取り立ててノロマということもない。いわゆる「物的生産性」、つまり時間あたり産み出す「財」が少ない、というほどのこともない。
・・・また、5つ目の表のとおり、その国通貨べースで計算した一人あたりの実質GDPの成長率(2010~2024年)では、日本もそこそこの成長率。要は絶対値的には低めかも知れないが、成長率的には、別に大きく劣後しているわけでもないのだ。
・・・そこで、ずばり言う。日本の絶対的な数値レベルとして、一人あたりも、時間当たりでもGDPの数字がドル換算でずっと低い理由の半分は、労働が産み出した「財」の市場Pricingが低く歪んでいるからなのだ。
・・・仕入れ80円で産み出した「財」を100円で売ったら20円の「付加価値」(GDPは付加価値)を産む。しかし過当競争のためそれを90円でしか売れないとすると、付加価値は10円にしかならない。日本の諸産業で起こっていることはこれなのだ。プレーヤー過多、差別性乏しいまま値下げ競争に明け暮れる、これが日本の企業・事業だ。そのため、産み出した「財」のPricingが歪んで安い。だからGDPが低めに抑えられるのだ。日本人がノロマなのではない、価格が安いのだ。