★中国・韓国との間で随分摩擦が起こっている靖国神社参拝問題は、問題の根が深い。先ず「A級戦犯」をどう理解するか。「A級」というので普通は「BやCより罪の重い戦犯」と思われがちだ。しかし、これは戦後のポツダム宣言の中で連合国が、A:「平和に対する罪」(要するに侵略戦争を起こした罪)、B:「殺人と通例の戦争犯罪」(従来からあった捕虜虐待とか一般人虐殺の罪)、C:「人道に対する罪」(ナチスが組織的に他民族抹殺を図ろうとした罪)を定めて、この分類に基き、極東国際軍事裁判で東條英機以下27名がこの「Aの罪」として裁かれたもの。要するに、日本が中国への侵略戦争などを起こしたその責任を取らされたもの。

★しかし、この「A型戦争犯罪」裁定には日本でも根強い疑問が上げられる。典型的疑問:①それ以前の考え方では、国家同士の戦争は必要悪だが、戦争にもルールがあって、さすがにルール違反だけは事後に裁かれた(上記のB型)。②ところが極東国際軍事裁判では、戦争が終わってから「戦争そのものが罪」という新しい法を作って、それで、過去に遡って裁いたものゆえ不当。③要は「戦争に負けた罪」が問われているに等しい。中国への侵略なら英国のアヘン戦争での侵略に始まり列強が皆軍隊を引き連れて行なった。日本は結局、太平洋の方で米国等に負けて降伏したので、日本だけが戦争責任を問われた。④一方、「B型」(一般人虐殺等)の罪では、原爆・空爆で日本国民20万人を虐殺した米国は、勝った方なので一切罪に問われなかった。――― このような意見は、③の中国侵略の度合いで結局日本が突出した事などを考えると全部が妥当ではなかろうが、日本に存在する根強い心情を表している。

★ドイツは、戦争責任を全てナチスのせいにして「ドイツ国民はむしろその犠牲者」という構図に持っていった。日本は、戦争責任の頂上にいた天皇の責任を問わないことにしたこともあって、なんとなく意識上「一部の軍部」だけを悪者にし切れず、「なんやかんやいって国全体として戦って負けた。悪いなら大なり小なり皆が悪い。A級戦犯の人は代表で処刑されたようなもの。」といった気持ちの人が結構多い。だから「A級(A型)戦犯も含めて一緒に靖国に合祀されていてもいいじゃないか」との意見にもなる。

★しかし、中国側には、これとは全然違う思いに固まっている人や、別の政治的思惑を持っている人たちがいる。これについては次回に書くとして、今回は、「ああ、相違の根は深いな」という溜め息を書いてみた。      Nat