★前回、少なからざる日本人の心情の中に、A級戦犯者だけを悪者にし切れないものがあるということを書いた。では、中国側から見て、どうだろう。

★中国といっても、①元の国民党政府、②その後の共産党政府、また、③一般国民という具合に分けて考える必要がありそうだ。

★先ず、1937-45年の8年間続いた日中戦争だが、日本軍の直接の相手は主に蒋介石国民党軍である。国民党軍は実質的に日本軍に敗退し重慶にまで退くが、太平洋戦争の終戦で日本が降伏した後、今度は共産党軍に追われて、台湾にまで逃げるのである。戦後、1951年に連合国側と日本とがサンフランシスコ講和条約を調印した際、国民党は呼ばれなかったが、この条約に基き52年に日本と台湾国民党政権との間で日華平和条約が結ばれて、日本が台湾領土権を放棄する形で台湾国民党との間では戦争処理が完了している。

★しかし、問題は49年に樹立していた中国本土の共産党政権。サンフランシスコには参加が認められず蚊帳の外であった。この共産党政権が日本と漸く取り決めが出来たのは、1972年の日中共同声明においてである。日本は戦争責任を反省し、中国は「日中両国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する」ことを宣言したのである。またこれを受けて、日本は79年から今に至るまで3兆円余りの経済協力(賠償金ではなく支援)を行ってきている。政府同士の整理としては、これで完了しているといえる。

★では、何故、中国の国民が根深い反感を持つのか、また、何故A級戦犯問題がこのようにトゲになるのか? この辺からは、私の限られた知識からの理解になるが、先ず、A級戦犯問題。極東国際軍事裁判の際、蒋介石は日本の侵略戦争を一部の軍部(A級戦犯)の責任に帰して日本への戦時賠償請求権を放棄した。また、後の72年の毛沢東・周恩来の日中共同声明でも、これに習い、戦争責任をひとえにA級戦犯に帰して賠償を放棄すると国内的に整理し、むしろ経済支援の実を取ることにしたのである。だから、今さら日本側にA級戦犯に同情的な態度を採られては、賠償を放棄した大前提が崩れて困るのである。

★次に中国の一般国民はどうか。これに絡んで、江沢民の反日教育が背景と良く言われている。また、日本軍による「南京虐殺事件」(37年)についても実態よりも遥かに大規模であったかのように政治的に喧伝してきているとか、一方同じ年の通州(北京の東)での中国兵による日本人居留民虐殺については一切国民に教えない等という“情報操作”も良く指摘される。そういう面もあろうが、私は私見として、中華・漢民族という最も誇り高い民族からして、本来全く格下の日本に実質敗戦し、米国に救われた、その日本がその後ずいぶん発展をしているという、この構図そのものがそもそも心情的に許せない、このことがずっとベースにあると思う。英仏露は結局ドイツに勝ったのだが、中国は日本に勝てなかったのである。だから、根が深い。

★では、どうしたらいいか? インスタントな解決策は多分ない。ムード的に何か追加の謝罪行為をしようとするのは色々な意味で禍根しか残さない。また史実の認識の違いを色々な立場の日中の学者が集まって解決するとの提案もあるが、60年以上前のことだし、今更「違ってました」とは言えない政治的面子もあるだろう。では、何もせずじっとしているのが一番なのだろうか? 私は少なくとも日本側では、特定の意見・立場に走る前に、どういう異なる意見や史実認識があるのかを、若い人も含めて、より理解を深めるように努めるべきと思う。それで、このちょっと長い文を書いてみた。  Nat