昨年3月の福島原発事故から1年以上経つが、いまだに、福島周辺や東北の産物は敬遠されるようだ。事故から暫く、食品中の許容放射能量につき混乱していたが、今年の4月1日に政府から新基準が出て、基準問題は一応落ち着いた。新基準は、年間の被爆量を1ミリシーベルト以下に抑えられるように、食品1Kgあたりのセシウムを100ベクレル以内(乳幼児用は50ベクレル以内)に引き下げて定めたものだ。年間の1ミリシーベルトは、病院で一回のCT受けて被爆する6ミリシーベルトの6分の1だ。
世界の標準的な食品基準が1000ベクレルだから、日本のこの新基準は、福島事故で神経質になっている日本国民の心理を勘案して、かなり低い数字にしたものと理解される。しかも、新基準の発表後、スーパーなどでは更に自主的に50ベクレルを基準にして、仕入れ品を制限するのが標準になったので、我々がス-パーなどで食べ物を買っている限り、国際基準のまさに20分の1の非常に低い数字のものになっていると考えていいのではないかと思う。また、そもそも50ベクレル以下で20くらいにまでなると、放射能測定機器で検知できないレベルに近づく。
それでは、このように50ベクレル以下の食品で国民として本当に安心になったかというとどうだろう? 先般、テレビ報道にあった話だが、とある小売店で、測定出来ないくらいの6ベクレルもの低い数字であることを確認したハンバーグを「放射性セシウム6ベクレル/Kg」として表示したところ、売れなかったらしい。これは、明らかにその小売店の表示の稚拙さである。バカ正直に表示するとしても、「このハンバーグは、放射性セシウム政府基準値である100ベクレル/Kgに比べて、6ベクレル/Kgとほぼゼロです。」くらいに言わないと意味が分からない。消費者はそもそも「完璧にゼロ!」を求めているのだろうから。
ということで、この「セシウム完璧ゼロ」を求めるべきかどうかに移るが、神経質に追及すると、西日本の産物だったりして、セシウム・ゼロ(10ベクレルとか以下で検知不能)の食物も見つかるだろう。 しかし、セシウムをゼロにして、どれだけ意味があるかの議論で必ず出てくるのが、カリウム40だ。カリウム40は自然界に広く存在する放射性物質で、通常の食品に、セシウムの放射能に換算して典型的には60ベクレル/Kgくらい入っている。我々は毎日1Kgくらいの食物を食べるので、毎日60ベクレルくらいは取り込んでいることになり、我々の体中に3000ベクレルくらいが蓄積している。カリウム40もセシウムも放射する放射線はベータ線(電子線)なので、体への影響は同じ。つまり、もともと我々の体はカリウム40からのベータ線を3000ベクレルくらい体内で受けていてもおかしくならないように出来ているのだ。とすると、ここで、同じベータ線を出すセシウムを、セシウム・ゼロ食品に拘って抑えこんだところで、我々の体の受けるベータ線の違いは誤差の範囲でほぼ全く違いはないことになる。また、たとえ、稀に検査漏れで150ベクレルくらいの野菜などを食べてしまったとしても、その同じ検査漏れの野菜をわざわざ毎日選んで、200日間くらい食べ続けないと、年間の被爆目途1ミリシーベルトにまで達さない。ということから、1ミリシーベルトの被爆をしないより被爆しようとするほうが難しいくらいだと思う。
以上の理由で、私自身は、食品中のセシウムのことは全く気にせずに暮らすことにしている。しかし、以上は理屈の世界の話だ。そもそも、我々には、セシウムもカリウム40も良く分からない物質だ。ベータ線も分からない。シーベルトとかベクレルも分からない。というように、放射能の話は特殊な世界の話だ。どんなに理屈で説明されても、どこか不安が残る。福島でドーンと爆発したのだから、何か大変恐ろしいものが世にはびこったという恐れが強く残る。しかも、放射能は目には見えない。影響も30年くらいして初めて出るとも言う。となると、世の母たちが、念のために、わが子の為にセシウム・ゼロ食品を探そうとすることは理解できる。理屈じゃない。わが子への「思い」の問題だろう。 Nat