安倍政権の「働き方改革法案」が難航中。厚労省のお粗末が足を引っ張るのには安倍首相も業を煮やしているだろうが、安倍政権自身に理念も信念もないことが本質的な敗因のように思う。

安倍政権は成長戦略と受け狙いの両方で、当初から「働き方の改革」のアドバルーンを上げてきた。人口減少時代にあって女性の働き易さを向上するといった話だ。その頃から、私は「歯が浮く」気分ではあったが、法案の具体化のこの局面になると、一層、理念・信念が遠のき、要するに以下のように、ただただ「受け狙い」と「支持団体との取引」に堕してしまっているように見える。

(1)電通の過労死事件などで、過労対策を打ちださないと国民受けできない世相の中で、兎に角、時間外労働の規制は法案に入れた。

(2)しかしそういう規制だけでは、自民党の応援団の中小商工系団体が難色を示すので、一見、企業経営の近代化にも見える①「高度プロフェッショナル制度」(労働時間を売るのでないプロ対応)の導入と、②「裁量労働制の対象拡大」(実際の労働時間に拘わらず見做し労働時間で報酬を決める、そういう職種の拡大)の二つを入れて、残業時間規制に難色を示す中小商工と取引しようとした。つまり、中小商工は、もとから、実際の長時間労働にも拘わらず少な目の労働時間と見做すことで人件費の抑制を図ってきたが、それを、安倍法案のプロ制度導入と裁量労働制拡大で、より正々堂々とやれるという訳だ。

● 斯かる姑息な法案だから、当然野党は噛みついてくる。そこを、安倍政権は厚労省のお粗末データで野党を押し切ろうとするから墓穴を掘った。

● 日本が今、実現すべき働き方改革は以下だ。

(1)安倍法案の3つ目の軸である「非正規」を「正規」に近づけることではなく、戦後の終身雇用制が今や行き詰まり、会社と「正規」の関係が動脈硬化になっているのを打破することだ。「正規」の人の中にはポジション守るためとか、残業代稼ぐ等にのみダラダラと残業する人も多い。それでいて本当に必須な場合でも会社側は解雇不能。そしてその分、シワ寄せを受けているのが非正規なのだ。即ち、日本経済の根本問題は「非正規」にあるのではなく、「正規」の方にあるのだ。この改革なしに、小手先で残業規制とか、非正規との格差問題をいじっても「対症療法」にしかならない。

(2)そして、あと二つ:①最低賃金の大幅引き上げ(それで非正規等の生活を守る)、②解雇規制緩和の見返り、失業ネットワークの充実と再雇用・転業の為の訓練制度の充実。以上だ。

● そういう本当に大事なことは、安倍自民も、また労組配慮の民主などの野党も取り組まない。彼らが取り組むのは、姑息な対症療法法案と、それへの難癖反対運動だけだ。・・・日本は、ここでも迷走中だ。    Nat