★今日の夜7時半のNHKテレビ、「クローズアップ現代」で、日本の医薬品供給が大きく不足している大問題の報道をしていた。NHK
・・・NHKならではの、特定課題に切り込む番組ではあったが、新聞では日経が御用新聞になってしまっているのと同様、NHKだから、今の医薬品の供給不足という大問題の報道で、厚労省の失政という本質的な面につき、全く切り込まないままとなっていたのが、残念だった。
◆ 「去たん薬や高血圧の薬でも不足、不足する数は約3,800品目」とNHKの報道では言っているが、事の本質は、去たん薬や高血圧の薬などという普及種目の薬だからこそ発生している問題なのである。
・・・即ち、NHK 報道では、ひとことも「ジェネリック」と言うことを言わなかったが、不足する薬の大半は、ジェネリック薬(後発薬)であり、供給不足は、ひとえにジェネリック薬に関する厚労省の大失政なのである。
◆ ジェネリックが始まる前の医薬品の業界は、特許・知財で独占的立場にあった大手の医薬品メーカーと厚労省の間の、密室的な、持ちつ持たれつの世界で運営されていたのだ。・・・厚労省の行政は、そういう大前提で出来ていた。
・・・しかし、厚労省は、2012年以降、特許切れの医薬品、いわゆるジェネリック薬の普及政策を採用した。ジェネリック薬の生産・販売という特許に縛られず誰でも出来ることを、多数の薬メーカーの自由競争に委ね、もって、薬の市場価格レベルの引き下げ、ひいては破綻しそうな健康保険体系の改善につなげようとしたのだ。
・・・しかし、ここで、多数のメーカーの勃興、競争などという市場原理に全く体質が付いていっていない厚労省が、以下の二つの大きなミスを犯したのだ。
(1)丁度、2016年の電力小売り自由化で経産省が市場展開に体がついていかなかったのと同様、実際の市場展開は、厚労省の想定を全く越えていたのだ。・・・170社もの零細のジェネリック薬製造メーカーが日本中に乱立したのだ。・・・しかも、納入先の医療機関(病院)あるいは医薬卸屋は、これまでの大手薬品メーカーに対すると同様の「上から目線」での要求を、斯かる零細ジェネリックメーカーにも押し付ける。ここに日本の産業における、いつもの儒教的な「お客は神様」文化の大弊害が出ているのだ。・・・だから、一つひとつの零細メーカーが、「お客様」の「上から目線の要求」に必死に応えようと、無理な多種少量生産を努めた。
(2)更に、斯かる零細メーカーが価格下げ競争をする。その結果、下がった市場実勢価格が、翌期の厚労省の薬価になってしまう。・・・ジェネリックの市場価格は、悪循環で下がり続けた。設備投資不可能なレベルにまで。しかし、厚労省は下がる価格を喜んで見ていただけなのだ。
◆ 結果として、慢性的赤字のジェネリックメーカーが充分な供給が出来ず、去たん薬や高血圧の薬でも市場から供給が消えたのだ。・・・それだけでなく、検査の誤魔化しが多発した。
・・・これらの全ての責任は厚労省にある。
・170社の乱立で市場価格が下がるのを嬉しく眺める発想しかなかった厚労省役人だ。政治力のある医師会と、大手医薬メーカーとしか話ししたこともなかった厚労省役人には、170社の乱立する零細メーカーの挙動や思惑などを思い描くマインド構造は皆無だったのだ。
・だから今、170社乱立、ジェネリックの絶対的供給不足。
・・・これを改善する術を厚労省は持ち合わせていない。検査の強化という締め付けは出来ても、供給確保の術はないのだ。
・・・170社のM&Aによる再編統合策などという、経産省っぽいことは厚労省役人には全くできない。
・・・安過ぎる薬価の改善から始めているが、市場原理という厚労省の最も苦手なことが相手だ。市場原理で、供給が回復するのは、時間がかかろう。
◆ 規制が専門の官庁が、2016年の経産省の電力自由化や、2012年の厚労省のジェネリック薬のような、市場原理を活用する施策をすると、超「市場音痴」の官僚が考える、とんでもない施策が導入されてしまう。そして、その為の大混乱の是正は、まず、経産省、厚労省などが自分の大失策を認めないから、なかなか始まってこないのだ。
・・・今晩のNHKの番組のえぐり出すべき最も本質的な問題は、そこだったのだ。 Nat