★昨日のVWなどの苦戦の背景への私の見方に続き、リチウム・コバルトなど電池の材料面でも、中国の支配を許してしまっている、残念な現状につき、以下の通り書いてみた。
◆昨日、リチウムやコバルトの資源或いはサプライチェーン(と言うかバリューチェーン)における中国の支配と言っているのは、単に資源存在の国というよりも、特に中国企業の買収や原料の長契での買い占めによる支配と、更に精錬段階の寡占のことを言っている。結構、由々しい問題かと。
<1>リチウム:
・鉱山:オーストラリアや南米(アルゼンチン、チリなど)のリチウム鉱山への、中国企業の投資と長期契約による鉱石支配が進んでいる。
・精製:中国はリチウム精製の分野で約60%を超えるシェアを持ち、世界のリチウム精製加工市場を支配している。そして、それは、中国政府の10年くらい前からの国家戦略で、EVや再生エネルギー用のリチウム電池を戦略商品と定め、リチウム鉱山への投資や長期契約での確保から、精錬工場とその技術の開発までの「垂直統合」に励んできた結果と理解している。
<2>コバルト:
・鉱山: 有名なコンゴが世界の7割だが、今や中国企業がコンゴの主要鉱山を取得・運営している。即ち、中国五鉱(China Molybdenum)などが、世界的な鉱山会社からコンゴの鉱山権を取得してきた。そして、コンゴの鉱石は今や中国企業が大半を長契で買い占めて独占してしまっていると理解している。
・精錬:中国は世界のコバルト精製加工の約80%を占め、精製コバルトの大部分が中国で処理されているため、原料の精製加工段階で強い支配力を持っている。(注:以下のチャートは2016年のシェアで中国はまだ50%ちょっとだが、今や80%という。)コバルトの精製は労働集約的(注:多くの作業員が各プロセスを管理・監視する必要があるため、労働集約的)で、且つ、環境負荷が高い工程が含まれる(注:酸や他の化学薬品を使用するため、精製過程で大量の廃水が発生)ため、他国では難しい面あり、コンゴなどからの鉱石は殆どが中国企業が買い、中国の精錬工場に送られ処理されていると理解している。
◆ それが故に、米国も国内のリチウムやコバルト資源の開発と国内精錬の後押しをしているし、日本政府も米国と連携し、リチウムもコバルトも産出する豪州との米日豪連携で、中国の支配に対抗しようとしていると理解される。
・・・しかし、本当はもっと前からやっているべきであったと思う。中国政府がリチウム電池での独走、更にその原料の支配までをしてきたのに対し、米日欧の打ち手は遅れた。
・中国が戦略に先んじ独走、一方で、米欧日が遅れを取った要因は以下だろう:
①中国政府は、自国の圧倒的な巨大市場を利して、EVとLi電池で世界を制覇できるとの戦略を立てやすかったこと。
②リチウム・コバルト、特にコバルト精錬などの環境汚染のある業態を、米欧日は、環境規制が厳しい余り、自国の関与を回避し中国に任せてしまったこと、そして、中国の支配が経済安保上、脅威であることを認識するまで、対抗策を取らなかったこと。
・・・そして、リチウムなどのリサイクルでも、結構中国に先んじられているようだ。
・・・この辺、ちょっと悔いが大いに残る気がする。中国に「戦略」でも負けている気がするからだ。

 Nat

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<追記>
★結局、大局観から言うと以下だろう。
(1)欧米、特に欧州が、脱炭素という政治テーマを優先するあまり、早期EVシフト路線を打ち出したのが、今の苦境の全てを産み出した元だ。
(2)今からの「あと知恵」かもしれないが、①電気モーターで動く自動車なる20世紀(あるいは19世紀?)の技術の商品で、しかも、②開発のポイントも20世紀的な蓄電池の改善と大量生産、更に③充電器の社会インフラが決め手という全体主義国家が大得意なテーマが決め手の商品、そんなものへの急速なシフトを、人為的に世界の自動車市場に対して強要したわけだから、もう、中国に一人勝ちしてくれと、中国のためにそうしたようなものだ。事実、中国政府は、EVへの政府助成のみならず、国を挙げて充電器ネットワークを構築してきたのだ。国家資本主義ならではである。
(3)しかも、歴史を振り返ると、中国がEV覇権を想定しその歩みを始めたのは、2001年の「国家中長期科学技術発展計画」でだ。EVなどのクリーンエネルギー車を「新興産業」として位置づけ、将来的な成長分野として定めたのだ。欧米は、そうやって、着々とEVでの世界制覇の道を歩み出していた中国のことを知らなかった訳があるまい。だのに、欧米の脱炭素政治運動の究極のアクションとして、2020年直後くらいから、欧米は「完全EVシフト」を本気で打ち出すのだ。EV覇権に向かっていた中国に最後の決定的な一人勝ち勝利への切り札を渡したようなものだ。・・・特に欧州政治家の愚かさの骨頂である。
◆ 欧米が脱炭素に向けて、PHVを筆頭とする、ガソリン車の良さとEVの良さのいいとこどりの商品を前面に立てていたならば、ガソリン車における欧米日の技術的な優位性を活かしながら、充電器社会インフラという中国全体主義でしか急速に展開しづらい愚かな条件も必須与件にしなくて良かったわけだし、巨大蓄電池のコスト下げ競争が決め業にもならなかったかもしれず、今の中国のEV覇権を見なくても済んだ可能性が高いと私は思う。・・・トヨタはPHVではなくHV中心だったが、思想的にはそれを掲げていたと思う。今からでも、若干の軌道修正は起こり得るが、欧米が始めてしまった中国EV一人勝ちの世はもう大きくは変わらない。残念。(注:なお、トヨタのプリウスPHVが良い車等とは全く言ってないので誤解なきよう。あくまで、脱炭素自動車のコンセプトとしての議論だからね。)

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