★日鉄のUSS買収の訴訟問題。
・・・買収計画を破棄する期限が当初の2月2日から6月18日まで延長されたと日鉄・USSが発表した、と報道されている。
◆ 訴訟がなされているので、対米外国投資委員会(CFIUS)が、日鉄・USSが「両社間の買収実行期限である6月18日までは計画破棄期限を延長してほしい」と言えば、それくらいは認めることは大いに想定内である。
ただし、以下の日経記事が最後に言っている「まずは米政府が働きかけて、米裁判所が日鉄側の訴えを却下する可能性が残る。」という点は、全く変わりない。というか、日経は、日鉄に配慮してだろうが「訴え却下の可能性が残る」などと控えめな書き方をしているが、私は遥かに悲観的である。
【1】裁判所の門前払い・却下:
・何度も書いている通り、日鉄は「米政府の判断に不法な政治的介入があった」として訴訟しているが、米政府がこの買収で米国の国家安全保障のリスクを判断する際、どのリスクをどう重視して決定的と思うかは、もう100%政治的判断である。つまり、国家安全保障判断そのものが、もう丸ごと「政治的介入判断」なのだ。だから、米政府の国家安全保障判断に「違法な政治介入」は論理的にあり得ない。全部、合法なのだ。
・もし手続きの重大な瑕疵があった場合を除いて。
・また、もしUSWなど労組やクリフスなどと政府が米国内で色々会話していたとしても、会話しないで政府が頭の中だけで判断することもあり得ないから、どんな会話があっても、違法性を見出すのは難しい。
⇒ ということで、これは「政治問題の法理(Political Question Doctrine)」により、裁判所が判断を控える問題となり、裁判所のJusticiabilityを外れる訴訟事案と判断される公算が非常に高く、門前払いになるのではと私は思う。外れたらごめんだが。
【2】USS社への破談違約金問題:
・私は、「門前払い」になるだろうことは分かった上で、なお日鉄が訴訟に踏み切ったのは、もう日鉄経営陣の意地・プライド・面子だけだろう、と見ている。それに対し、多くの方や報道解説が、USSとの買収契約上の破談違約金逃れのためでしょうと言う。
・それは契約条文が分からないから、私も100%確実には主張出来ないが、私は以下と思っている:
・・・破談違約金の除外条件として、いわゆるActs of governmentは、契約上の一般論的には不可効力による除外事項になってはいるだろうが、こと、「CFIUS/米政府の安全保障理由の買収不同意」は除外の除外になっていたのではないか?と思っている。もう事前にかなり不同意の可能性があったから、それを除外しないことで、日鉄をして、対米国政府のロビイングに注力させるためだ。
・・・しかし、注力にも拘わらず、残念ながら、買収不同意の判断がおりてしまった。なら、そこから訴訟するだけでは、違約金債務からは逃れられない契約条項になっている可能性が結構あるように思う。・・・つまり、訴訟結果、日鉄が勝訴しない限り違約金債務は発動されてしまうのではないか、ということだ。
・・・この点、流石に、契約条項の詳細は報道で解説されてないから、私を含めて、どちらの意見の場合も、推察で語るしかない。・・・あるいは、契約条項上、微妙性があり、将来、日鉄・USS間で争う場合、日鉄として「訴訟は試みた」といって違約金逃れを主張する根拠が全くない訳もないのかも知れない。・・・しかし、私は、そういう根拠はない条文でしかないのでは、と推察している。なら、勝算なきこの訴訟。日鉄のメンツだけである可能性が高い。
⇒ 以上が、現時点での、外野席からの推察に基づく私の見方である。  Nat


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