★日本政府が、先端的半導体の国内製造体制の支援に加えて、設計技術が弱い点を改善すべく支援するという報道がある。
・・・私は、これまでの仕事で、半導体業界への関わりは少ないので、想像と独断での印象論になるが、政府は、日本がなぜ設計技術で斯くも遅れをとったのか?について、どこまで根本要因を振り返って政策提案をしているのか???疑問を感じる。つまり、今からでも日本での設計分野の研究開発に、3年で1600億円の資金を拠出すると言うが、それで、どれほどの意味があるものになるのか?だ。
日本の問題は以下ではないのか。
【1】「モノ」と「匠」への拘りと、逆に「ソフト」の軽視:
・半導体に限らないが、半導体で日本は今でも、製造装置と製造のプロセスに必要な特殊素材や要素装置の製造・供給はかなり強い。つまり「モノ」に肉薄し、難しいものを作りあげる「匠」(たくみ)の業は、「こだわり」をもって鍛えてきた。
・・・しかし、その反面「モノ」から離れた「ソフト」への軽視体質が、文化的・社会的にあるように思う。
・1990年代以降、半導体業界ではファブレス(製造施設を持たない)モデルが急成長。米NVIDIAやQualcommなどは、製造をTSMCのような専門メーカーに任せ、自社は設計に特化する戦略を採った。・・・一方、日本企業は、設計から製造まで一貫して行う垂直統合型モデルに固執、つまり「モノ」から離れるてはダメという、いい意味での拘りはあったが、それが、結果として、設計(ソフト)に徹した米NVIDIAやQualcomm等との比では、設計・ソフト分野で圧倒的な差になったのである。
・設計技術を支えるEDA(Electronic Design Automation)ツールの分野でも、日本は「モノ」(ハード)偏重で、設計技術を支えるEDA(Electronic Design Automation)ツールの分野に「美学」を感じてこなかったのだろう。
【2】日本の企業のムラ社会性:
・いつもの話になる。
・日本企業の終身雇用・年功序列で、経営陣も、部門の長も、年功順繰りで、比較的短い期間のその椅子に座り、あとは、後輩にバトンタッチする。
・そのような企業文化では、上への昇進に向けて「間違いを犯さない仕事ぶり」と「椅子に座っている期間中の業績安定を指向する仕事ぶり」になる。
・・・日本の半導体業界は、全体的傾向として、成長市場であるスマートフォンやデータセンター向けのプロセッサやGPUのような高付加価値分野への投資を積極的に行わず、成熟市場であるメモリや汎用品に注力する嫌いがあったと理解する。
・・・つまり、日本メーカーのムラ社会の中では、PC時代の延長線上でしか半導体市場を捉えず、スマートフォンやクラウドコンピューティングなどの新しい市場については、視野に入っていた人もいたであろうが、そちらの方向に強く進んでいくリーダーシップは、組織の中で浮いてしまうだけになったのであろう。
・・・また、「これからはモノと匠への拘りが、ソフトで置換される時代になる!」なんてことを言おうものなら、ムラの中で異端扱いされるのが日本だ。
・・・それというのも、よそ者を入れず、ましてやガイジンなどはもっての他という日本企業の「ムラ」が、人材の閉鎖性、発想の閉鎖性を生んだとしか言いようがないと思う。
◆ もしそうだとすると、今さら、政府が、大学やベンチャーの設計技術の研究開発に、年に数百億円の拠出しても、業界の大半の部分の「いい意味でも悪い意味でもの、モノと匠への拘り」「閉鎖的ムラ社会」・・・これが変わらないままでは、全く遅れに遅れた設計技術での追いつきなどはあり得ないのではないか?
・・・・もうこうなったら、モノと匠への更なる特化を強め、モノと匠では、世界の誰にも負けない尖がったものを産み出していく作戦の方が遥かに意味あるように感じる。  Nat

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